円タクに乗って帰った娘の亡霊
どんな伝承か
雨の夜、円タクの運転手町田君は、髪も肩も濡れそぼった若い女を乗せた。行き先は代々木駅のそば、千駄ケ谷の松木という家である。車中で女はすすり泣くばかりだった。酒屋の小僧に道を尋ねてようやく門前に着けると、女は金を持たせるからと言い残して植込みの闇へ消え、四十分待っても誰も出てこない。しびれを切らして呼び鈴を押すと、女中は、この家に娘はいない、お嬢さまは先月亡くなったと言う。出てきた奥さんに乗せた場所を訊かれ、火葬場の近くだったと答えると、家中が騒然となった。娘の名は芳子、盆の近い夜のことだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖奇怪談集(山門王吉・昭和初期(昭和11年前後))
山門王吉による『妖奇怪談集』は、明治初年から昭和初期にかけて日本各地で報告された超自然現象と心霊現象を記録した怪談集である。本書は単なる創作ではなく、実話や伝聞に基づいた報告として編纂されている。便所の霊、消えた女、生霊の憑依、棺桶の浮遊、死者との遭遇など、多様な現象が描かれる。特に強調されるのは、女性の死(身投げ・轢死・虐待死)に伴う怨念と執念である。