八 生首を盗む女
どんな伝承か
御維新の頃、京都市山科に大蛇の庄六という遊び人がいた。体中に蛇の刺青を彫り「大蛇の庄六」と呼ばれた小柄な親分で、よく日ノ岡峠を越えて京へ出て博奕を打ち、三条大橋近くの居酒屋「因幡屋」で一杯ひっかけてから山科へ帰るのが常だった。ある秋雨の降る夜、いつもより遅くまで博奕場に居残った庄六は、提灯を借りて因幡屋で酒を飲んだ後、独り夜道を帰る途中、智恩院の丑三つ時の鐘を聞きながら、誰もいないはずの背後から素足で歩くような足音がついてくるのに気づき、人魂ではないかと薄気味悪くなり、提灯を突きつけて誰何したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖奇怪談集(山門王吉・昭和初期(昭和11年前後))
山門王吉による『妖奇怪談集』は、明治初年から昭和初期にかけて日本各地で報告された超自然現象と心霊現象を記録した怪談集である。本書は単なる創作ではなく、実話や伝聞に基づいた報告として編纂されている。便所の霊、消えた女、生霊の憑依、棺桶の浮遊、死者との遭遇など、多様な現象が描かれる。特に強調されるのは、女性の死(身投げ・轢死・虐待死)に伴う怨念と執念である。