久保田君の夏蜜柑
どんな伝承か
京都四条通りの呉服屋の一人息子久保田は、放蕩の末に勘当され、大阪を経て四月に神戸へ来て鉄工所の職工となった。ある夜、某楼で寝込んでいると明け方、耳元で自分を呼ぶ父の声がした。飛び起きると姿はなく、隣を見ると女郎ではなく母がいた。驚いて家を出て多聞通を北へ急ぐと、夢に見た両親と、かつて駆け落ちした島原の女今奴の三人に出くわし、今奴は夏蜜柑を三箇くれてそのまま消えた。京都へ電報を打つと、両親はその朝、息子を思いつめて毒を仰いで死んでおり、今奴も家出の四日目に恨みを遺して井戸へ投身していた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(明治時代後期(推定))
本書『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、明治時代に大文館編輯部により編纂された怪談集であり、化け猫、怨霊、大入道など多様な超自然現象を扱う。主要テーマは、社会的弱者(娼婦、下女、村娘)への虐待と階級差別に由来する呪いと復讐である。兵庫県と大阪府が舞台の中心であり、遊郭での憑依現象、精神病院での怪病、山間部での大入道の出現など、当時の社会構造と結びついた怪異が描かれる。