片足の靴
どんな伝承か
神戸元町の一丁目と二丁目の境の山側、西側から三、四軒目にあたる場所で、日露戦争のころ支那人の夫婦が住んでいた。亭主は居留地の商館に勤め、家には若い妻と、来日の際に一生奴隷の契約で買って連れてきた十五、六の下女がいた。亭主が妻の目を盗んで下女に手を出すので、妻は嫉妬に狂って下女に当たり散らし、やがて夜ごと二階の一室に閉じ込め、素裸に吊るして責め苛んだ。ある日、責め苦に耐えかねて向かいの日本人の家に逃げ込んだ下女は引き戻され、翌朝は柱に縛られたまま殴り殺されていた。葬式の後、片足の破れ靴だけが残された。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(明治時代後期(推定))
本書『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、明治時代に大文館編輯部により編纂された怪談集であり、化け猫、怨霊、大入道など多様な超自然現象を扱う。主要テーマは、社会的弱者(娼婦、下女、村娘)への虐待と階級差別に由来する呪いと復讐である。兵庫県と大阪府が舞台の中心であり、遊郭での憑依現象、精神病院での怪病、山間部での大入道の出現など、当時の社会構造と結びついた怪異が描かれる。