夫の謎の失踪事件
どんな伝承か
漁に出た夫の甚左は嵐で海に投げ出されたが、金比羅様に助けられたと語り、変わり果てた姿で家に戻った。妻お鶴と子どもたちは涙を流して喜び、着替えさせて休ませた。ところが翌朝、寝所を見ると甚左の姿だけが消えており、着替えさせた着物だけが残されていた。雨戸は閉ざされたままで出入りした跡もなく、家の中のどこを探しても見当たらない。狐か狸のいたずらか、それとも子への未練から魂魄が迎えに来たものか、真相はついに分からずじまいだったという、お鶴の語った話である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話(明治期(明治9年~明治18年の事例を含む、編纂は明治中後期と推定))
『実説妖怪新百話』は江戸時代から明治期にかけての怪談・心霊現象を記録した実例集である。本書の主要なテーマは、嫉妬・怨念・執念による死霊の祟り、狐や狸による化かしと報復、そして不幸な死を遂げた者による因果応報である。特に注目される点は、妻の虐待や後妻問題に関連した怨霊現象が多数記述されていることで、嫉妬による執念がいかに強力な超自然力となるかが繰り返し示唆されている。