越後への旅で神隠しにあった武士
どんな伝承か
『北越奇談』にある話。享保三年亥年、奥州の武士某が越後の柏崎へ赴く途中、石地の駅で馬を継ぎ、馬方を半丁ほど従えて駅の町まで出たと見えたが、急に行方が分からなくなった。馬方は柏崎の駅の椎谷という所の問屋まで訪ねたが、荷物の主が来ないと言って受け取ってもらえず、石地の問屋に申し出て、町役から柏崎の陣屋へ訴えた。四方を探しても見つからず、死んだものとして荷物は郷里へ送り返された。ところが半年ほど過ぎて武士は突然国へ帰り、石地の町外れで山伏と出会い、路もない幽谷を鳥のように飛んで金閣玉楼に至り、日光だと教えられて拝もうとすると、夢が醒めるように故郷の野原に出たと語ったという。
原典より
懸崖絶壁、路もない幽谷を行くこと鳥の空を飛ぶ如くである。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。