獣の毛をつけて戻った神隠しの少年
どんな伝承か
大正八年十一月二日、青森県七戸町付近で第八師団の機動演習が行われた。演習見物に出た七戸尋常高等小学校一年の友崎吉戸(仮名)は、満六歳十か月であった。その日の朝五時ごろ家を出たまま帰らず、学校、警察、消防組、青年団を挙げた大捜索も六日間実らず、狐か狸に化かされて死んだのだろうと噂された。十一月七日の早朝、町から北々東へ一里余りの榎林という部落で、放牧した馬を引き戻す農夫が、沢辺の窪地に丸まっている子を見つけた。少年は無事であった。着物の内側には獣の毛がどっさり付いており、六日間の記憶は本人にもまったくなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。