窓辺に立つもう一人の自分
どんな伝承か
大正十四年五月九日の明け方、日本橋区の中ほどにある自宅での出来事である。二十一歳の青年SS氏は、家人に事務室の窓の日除けが壊れていると起こされ、寝巻のまま寝室を出て窓へ向かった。十歩ほどの距離を半分ほど進んだところで、自分とそっくり同じ寝巻の男が先に窓際に立ち、机に椅子を二つ重ねて登り、窓かけを直しているのが見えた。誰かと訝るうちにその男が振り返り、まぎれもなく自分自身だと分かった瞬間、彼は気を失う。目覚めると頭に包帯を巻いて寝かされていた。家人によれば、椅子ごと落ちて気絶し、三十分ほど人事不省だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。