舞台で再現された木魂の気味悪い声
どんな伝承か
二十年ほど前、アメリカの役者が来日して「リップ・ヴァン・ウィンクル」を演じた。たしか歌舞伎座であったと記憶している。山中でリップが元気よく自分の名を叫ぶと、反響が大勢の声となって返り、調子の低い、うつろで気味の悪い声が嘲るように答えた。その迫真ぶりが強く印象に残っている。声の音色が変わるのは高い上音が失われるためであり、反射面に段差があるために音が引き延ばされ、幾人もの声に聞こえるのである。この二つの要素がきちんと押さえられていた。役者は木魂という化物をよほど深く研究したに違いない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦・大正9年(1920)〜昭和12年(1937)発表の随筆を収録。中公文庫『怪異考/化物の進化 寺田寅彦随筆選集』)
物理学者・寺田寅彦が大正9年〜昭和12年に発表した随筆を集めた一冊。表題作「怪異考」では郷里高知の怪音「孕のジャン」を地鳴り(小規模地震)、馬を殺す魔物「頽馬・ギバ」を空中放電(セントエルモの火)と推定するなど、各地の怪異を一次資料(『民俗怪異篇』『伽婢子』等)に基づき現代科学の語彙へ翻訳する。