三原山火口で試した五つの母音の反響
どんな伝承か
鸚鵡石のような反響の怪を考えるとき、著者は十余年前の夏を思い出す。大島の三原火山を調べるため、火口原の一隅に数日の天幕生活をしたときのことだ。風のない穏やかな日、火口丘の頂に立って大声を出すと、正面の火口壁から実に明瞭な反響が返ってきた。面白がってアー、イー、ウー、エー、オーと五つの母音を順に発してみると、アやオは強く返るのに、イやエは弱く短くしか返らない。後者は振動数の高い上音を多く含み、そうした上音は波長が短いため吸収や分散を受けやすく、全体として反響が弱まるのだろうと考えた。鉦や鈴、調子の高い笛が鸚鵡石で響かないという古記録と、この経験は相通じる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦・大正9年(1920)〜昭和12年(1937)発表の随筆を収録。中公文庫『怪異考/化物の進化 寺田寅彦随筆選集』)
物理学者・寺田寅彦が大正9年〜昭和12年に発表した随筆を集めた一冊。表題作「怪異考」では郷里高知の怪音「孕のジャン」を地鳴り(小規模地震)、馬を殺す魔物「頽馬・ギバ」を空中放電(セントエルモの火)と推定するなど、各地の怪異を一次資料(『民俗怪異篇』『伽婢子』等)に基づき現代科学の語彙へ翻訳する。