江戸に降った毛と大島の火山毛
どんな伝承か
空から毛が降るという怪異は、古くから各地に記録がある。その多くは火山毛、すなわちペレ女神の髪毛と呼ばれるものであろうと考えられる。江戸でも慶長・寛永・寛政・文政のころの記録が残り、『耽奇漫録』によれば文政七年の秋に降った毛は、長いもので一尺七寸に達したという。ちょうどこの前後に伊豆大島の火山が活動していたことが記録されており、江戸の近くを台風が通った折に、大島の空から江戸の空へ運ばれて落ちたものと説明がつく。逆にいえば、この怪異の記録から、その日の低気圧がどの経路をたどったかをおおよそ推し量ることもできる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦・大正9年(1920)〜昭和12年(1937)発表の随筆を収録。中公文庫『怪異考/化物の進化 寺田寅彦随筆選集』)
物理学者・寺田寅彦が大正9年〜昭和12年に発表した随筆を集めた一冊。表題作「怪異考」では郷里高知の怪音「孕のジャン」を地鳴り(小規模地震)、馬を殺す魔物「頽馬・ギバ」を空中放電(セントエルモの火)と推定するなど、各地の怪異を一次資料(『民俗怪異篇』『伽婢子』等)に基づき現代科学の語彙へ翻訳する。