腸チフスの妹の枕元に現れた男の子
どんな伝承か
長谷川時雨が佃島に住んでいたころ、妹が腸チフスにかかり、離れの二階で寝ていた。付ききりで看病していたある夜、ふと振り返ると、床の間の隅に十五、六歳ほどの男の子が腕を組んでしゃがんでいた。髪は焦げたように縮れ、細長い顔は腐った茄子のような色をしていた。時雨は怖くてたまらなかったが、ここで負けたら妹が死んでしまうと思い、勇気を奮ってもう一度見返すと、もう何も見えなかった。それから妹の病は快方に向かったという。座談会で泉鏡花は、疫病神に勝ったのだと評した。
原典より
あたしはずっと枕頭に付き切りで看病していましたが、或る夜、ふと、後ろを振返ってみると、あたしの後ろに 床の間のずっと隅に、十五六とも覚しい男の子が、…—— あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。