小田原の停留所に立つ同じ少年
どんな伝承か
長谷川時雨が雑誌の座談会で語った話である。佃島に住んでいたころ、腸チフスの妹を看病していた時雨は、床の間の隅にしゃがむ十五、六歳ほどの男の子を見た。勇気を出して見返すと消え、妹は回復した。それからしばらくして、時雨は箱根の家へ行くため国府津から電車に乗った。電車が小田原の幸町停留所に止まったとき、何気なく窓の外をのぞいて驚いた。停留所の名を書いた大きな電柱にもたれて、あの夜の少年とそっくりの子が腕組みをし、ぼんやりこちらを見て立っていたのである。時雨は、このときのほうがずっと不気味だったと振り返っている。
原典より
あたしの乗った電車が小田原の幸町という停留所に止ったとき、何心なく窓の外を覗くと、驚いたのです、あたしの眼の前に、停留所の名を書いた大きな電柱に凭れて、あの夜見たのとそっくりの男の子が、…—— あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。