茶碗に映る顔を飲みほした若党
どんな伝承か
天保三年一月四日、中川佐渡守が年始まわりの途中、従者たちをつれて江戸の本郷白山の茶店に立ちよった。一行が休んでいるうち、従者の一人の若党関内が大きな茶碗に茶をなみなみと注ぎ、口へ運ぼうとすると、透きとおった黄色な茶のなかに自分とはちがう若侍の顔が映っていた。茶を捨てて別の茶碗に注いでもやはり同じ顔が現れたので、関内は顔もろとも飲みほした。その夜、中川侯の屋敷で当直の関内の前に式部平内と名のる男が音もなく現れ、短刀で突くと蠟燭の灯が提燈の紙をすかすように壁をぬけて消えた。あくる晩は松岡文吾ら三人の家来が返報を告げに来て、斬りかかると塀に影のように飛びあがって消えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路・幽霊・文学史・昭和)