荒れ家で夫を待ち続けた宮木の霊
どんな伝承か
『雨月物語』の「浅茅が宿」。下総の葛飾郡真間の郷に住む勝四郎は、傾いた家を立て直そうと妻の宮木を残し、絹商人の雀部の源次について京へ上った。秋には帰ると約束したが、戦乱で東国への道が塞がれ、病もあって七年が過ぎた。ようやく故郷へ戻ると、雷に裂かれた松を目印に家は昔のまま残り、灯がもれている。中から現れた宮木は垢じみてやつれ、泣きながら留守の辛苦を語った。二人は抱き合って眠ったが、明け方に目覚めると屋根は風に剥がれ、庭は荒れ果て、妻の姿はなかった。宮木はすでに亡く、夫を慕う魂が一夜だけ姿を見せたのだと勝四郎は悟った。
原典より
つらかった留守の間のことを告げ、そして一夜添い臥して思いを遂げた以上、勝四郎を慕いつづけた宮木の霊は、暁も待たずに消え失せていったのである。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。