米屋の門口で再び現れた悪心
どんな伝承か
悪心の語るところによると、十三日の午後四時ごろ、山田は暗示どおり気分がよくなって床を離れた。母親から五円札を渡され、どこかで細かくしてくるよう命じられたが、湯屋など二三軒を回っても両替できず持ち帰った。夜になって母親は、その五円札で米屋から米を五升買い、残りを細かくして来いと命じた。山田は五升の米を提げて帰るのが嫌さに米屋の門口で躊躇し、悪心はこの機に乗じて再び山田を俘虜にした。そして五円札を持たせたまま浅草へ走らせた。その夜は家の近くまで帰ったが家には入れさせず、附近の女学校の軒下で一夜を明かさせ、翌十四日も早朝から浅草へ連れ出した。帰宅したとき五円札は二十五銭になっていた。
原典より
惡心「俺は米屋の前で山田が躊躇して居る時に、五體の中に入り込んだのだ。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。