大正二年の秋も末頃の或夕方
どんな伝承か
大正二年の秋も末頃の或る夕方、三好郡山城谷村(現山城町)の下川名の山中から、一隊の提灯の火が現れたのが、対岸の川崎方面からはっきり眺められた。提灯の群には梔子燈籠らしい青白い光が交じり、まさしく葬式の行列と見えた。ところがこの行列は次第に山を下り、山麓の西某という者の家の裏まで来ると、そこからまた山上へ引き返してゆくうちに消えてしまった。葬式なら人家から墓地へ行くのが普通であり、狸火にしては時刻が早すぎる。後で聞くと、その日の夕方、西某は自宅裏手の山上で狸を二匹捕殺して持ち帰っていた。時刻がぴたりと合うので、狸が弔いの列をつくって殺された眷属を見送ったのだろうと人々は哀れがったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1970年代~1980年代)
松谷みよ子『現代民話考 11 狸・むじな』を小話単位で全376話収録。狸・むじなにまつわる現代の民話・怪異譚(化かし・化け)を全国から採集し収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明372話・市区町村判明317話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。