木の葉に変わった祝儀と狐の輿入れ
どんな伝承か
寛保の五月十四日の夕暮れ、本所中の郷竹町の渡守の小屋へ、諸侯の徒押えと見える者が来た。羽織の紋は藤の丸の中に大の字。本所大久保荒之助の家来と名乗り、主人の息女が今夜下谷の何某殿へ輿入れするので渡舟をこちらの岸へ残らず漕ぎ寄せておけ、舟賃は定めの外に出すと言い、祝儀として金子一両を渡した。渡守は悦んで舟十艘ばかりを本所岸へ寄せて待った。夜九つ時ごろ、提灯を万灯のように灯し連ね、固めの武士が前後を守り姫君の輿を舁いだ行列が現れたので、丁重にもてなして向こう岸へ渡した。ところが一行はすっかり消え失せ、翌日金子を調べると小判ではなく木の葉であった。後に聞けば稲荷から稲荷への嫁入りであったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・大正・昭和初期)
博物学者・日野巌の古典的妖怪研究『動物妖怪譚』の前半(總論〜多爾具久)。