急死した親友の通夜に起きた怪異
どんな伝承か
えみ子の件が落ち着いたころ、中学以来の親友で会社の社長をしていた山川が急死した。七月半ば、決算の疲れが残るなか丸の内の会社の三階へ階段を上り、女秘書に甘い苺のジュースを頼んで口へ運んだまま、ソファから崩れ落ちた。隣のビルの医者の診断は脳溢血だった。その夜、下落合の自宅で通夜が営まれ、著者は夫人すゑ子の許しを得て夜通し遺体を観察した。午前二時ごろ、急に喉仏が動き、にたにた笑うように口が開いた。総入れ歯の上の歯が外れ落ちたためだったが、通夜の客は驚いて座を立ち、秘書の波川は倒れ、遺体が手を動かし温みが戻ったと泣いた。結局、背の変色がひどくなったため、遺体は死後四日目に火葬場へ送られたが、土葬にすべきだと言い張って手続きに加わらなかった波川は、その翌日の明け方に棺のふたがことりと鳴るのを聞いたと著者に訴えた。
原典より
すると、もう午前の二時頃になってじっとみていると俄然彼の喉仏がびくりと動いた。—— 霊界五十年(長田幹彦) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊界五十年(長田幹彦)
『霊界五十年』は、長田幹彦が自らの心霊体験を一人称でつづった随筆集である。霊媒亀井三郎の実験に立ち会った話に始まり、大正十四年に東京中央放送局で見た変死した技師の霊、自殺者の霊、神隠し、心霊写真、死者の霊との交わりなど、長年にわたって見聞きした出来事を語る。「亀井霊媒の実験」「放送局の幽霊」「霊界夜話」「幽霊のキスマーク」などの短い章を連ね、心霊研究の知人や医師との問答を多く交える。