森島左近の霊
どんな伝承か
著者が十四歳の夏、父と親しい群馬県知事F氏の官舎に兄とともに預けられた。官舎は利根川の堤のほとりにあった。知事が視察で留守の晩、子のない老夫人は著者を階下の古風な洋室の寝室へ連れて行き、仏壇の前で読経して燈明をともした。灯はまたたいては消え、夫人は、これは森島左近という武士の霊で妻子の霊も一緒だと明かした。維新の混乱期、故郷で庄屋を苦しめた奉行の森島を、知事が雨の日に橋の下で待ち伏せて討ち、すがる妻子も斬ったのだという。燈明は四度消え、闇の中で知事が剣戟の音と呼ぶ響きが聞こえた。
原典より
線香をあげると急に香煙がこっちへ靡いてきて燈明がだんだん暗くなる。—— 霊界五十年(長田幹彦) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊界五十年(長田幹彦)
『霊界五十年』は、長田幹彦が自らの心霊体験を一人称でつづった随筆集である。霊媒亀井三郎の実験に立ち会った話に始まり、大正十四年に東京中央放送局で見た変死した技師の霊、自殺者の霊、神隠し、心霊写真、死者の霊との交わりなど、長年にわたって見聞きした出来事を語る。「亀井霊媒の実験」「放送局の幽霊」「霊界夜話」「幽霊のキスマーク」などの短い章を連ね、心霊研究の知人や医師との問答を多く交える。