銀座の座敷で語られた前々世
どんな伝承か
釜石の幽霊屋敷を逃げ出してから十年ほど経ったころ、著者は大新聞の部長に誘われた。前世を見ることのできる老婆がいるから会わないかというので、冷やかし半分に出向くと、銀座の料理屋の一室に部長や友人ら数人が集まっていた。老婆は品がよく好感の持てる人だったが、学校教育はほとんど受けておらず、世界の歴史をまるで知らないことがあとで確かめられた。老婆によれば、相手の頭の上に過去が色つきのテレビのように映るのだという。著者の前世はアイヌの酋長の一人息子で、二十三歳のとき流れ矢に当たって死んだ。さらにその前は、玄宗という王の家来で高い位にあり、謀叛を企てて失敗し殺されたと語った。同席者たちはそれは安禄山だと言い合ったが、老婆は歴史を知らぬまま、この人が悪人であるはずはないと言い張った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・昭和(戦後))
西丸震哉『山とお化けと自然界』を篇単位で収録。完全装備で岩小屋前を通過する遭難者の幽霊目撃、木曾御岳の人魂たち、カラステングがタコを食う、亡き兄との交信やテレパシー(死者との通信)、幽霊の仮説・怪談といった山岳怪異譚を軸に、呪い殺しの実験・雨やみの術・日蝕と雨やみの術などの呪術、山の昆虫・メスネコの生涯・ヤマネとムササビ・ミミズク等の自然観察、酒・山旅・会津の秘境/栗駒山密林などの紀行随想を収める。