轟音とともに西へ飛んだ赤い火
どんな伝承か
東京の目黒の三田に吉田という富豪の家があり、その母堂は九十歳を超えてなお非常にしっかりした人だった。画家の小林古径も心から感服し、雑誌「美の国」にその感想を寄せたことがあるという。この老女が四十歳ぐらいだったころのある日の夕方、自宅の庭のすぐ脇の空地で近所の四、五人と立ち話をしていると、東の空から直径三尺ほどの赤い火が、ごうっという非常に大きな音を立てながら西へ向かって飛んでいくのを見た。語り手はこれを、人魂と呼ばれるもののうち球電のたぐいの一例として書きとめている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊の神秘(武久勇三・1949年(昭和24年))
『心霊の神秘』は、武久勇三が一九四八年晩秋に序を書き、昭和二十四年に善隣出版社から千部限定で出した心霊現象の解説書である。近親の死に際して現れた幽霊や夢知らせなどの実例を、戦時中の出来事や知人から聞いた話、外国の研究記事から集め、頭脳の霊波による精神感応として説明を加える。話の人名はすべて仮名とことわる。後半の「第三篇 超心理学」では透視術・夢の原理・催眠術・読心術を説き、終わりに戦死の知らせの話と生命論を置く。