十三間道路を横切った翠緑の火の玉
どんな伝承か
昭和十七年十月十三日の午後六時ごろ、語り手は荻窪駅から自宅へ帰る途中、荻窪二丁目の坂道にさしかかった。本田という風呂桶屋の二階の屋根のあたりから、鮮やかな翠緑色の火の玉が青白い尾を長く引いて現れ、十三間道路を横切って向かい側の平屋のあたりで煙のように消えた。その火の玉は中心が十字架のように光り、きわめてゆるやかな一定の速さで目の前を横切っていったという。消えた瞬間、語り手はなぜか嫌な気がした。居合わせた人々は皆、肩をすぼめて寒そうに家の中へ入っていった。語り手はこれを球電の一種であろうと考えている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊の神秘(武久勇三・1949年(昭和24年))
『心霊の神秘』は、武久勇三が一九四八年晩秋に序を書き、昭和二十四年に善隣出版社から千部限定で出した心霊現象の解説書である。近親の死に際して現れた幽霊や夢知らせなどの実例を、戦時中の出来事や知人から聞いた話、外国の研究記事から集め、頭脳の霊波による精神感応として説明を加える。話の人名はすべて仮名とことわる。後半の「第三篇 超心理学」では透視術・夢の原理・催眠術・読心術を説き、終わりに戦死の知らせの話と生命論を置く。