雨に濡れずに泣いていた喪服の婦人
どんな伝承か
中村四郎の体験談。昭和四十年の春、桜の咲くころのこと。杉並区堀の内に住んでいた語り手は、高円寺駅へ出るたび近道をして堀の内の火葬場の前を通っていた。その日は春雨が煙るように降る風のない静かな夕方で、午後四時ごろ、傘をさして火葬場の前を通りかかった。桜の散りそめる前庭の真ん中に、黒の喪服をまとった品のよい未亡人らしい婦人が立ち、顔に真っ白なハンカチをあててしくしく泣いていた。気の毒に思って歩き過ぎたが、雨の中を傘もささず濡れた様子もないのは変だと気づいて振り返ると、婦人は消えていた。広い庭から姿を消せるはずはなく、合掌してその場を去ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・幽霊・怪異体験・昭和)