死んだ母が私を連れに来た
どんな伝承か
語り手の祖父・安岡庄吉は土佐で庄屋を務め、名字帯刀を許された家柄だったが、明治十九年の大洪水で四万十川が溢れ、江川崎という村は水浸しになって住民の多くが流された。祖父母は鎮守の森へ逃げ、六百円の金貨を壺に入れて持ち出したという。その息子である語り手の父は十八年間村長を務めたが、語り手が七歳のとき死に、家も土地も失って母と上京した。大正二年二月十九日の大雪の夜、巣鴨駅の駅夫だった語り手は、夢で母と空を飛び、唐風の屋根の寺に着いたが足が進まず、母だけが入っていった。目覚めると下宿の主人が、十分ほど前に浴衣姿の母が戸を叩いて入り、立ち上がると消えたと言う。母は麻布広尾の鳥料理屋で女中をしており、ちょうどその時刻に死んでいた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・幽霊・怪異体験・昭和)