紬の着物で現れた臨終の父
どんな伝承か
そのころ一家は東京の中野坂上に住んでいた。写真製版の見習いに出ていた語り手は、その日の朝からわけもなく家へ帰りたくてたまらず、早稲田の姉の家から都電で新宿へ出たものの、映画館の前で気持ちが定まらず、結局堀ノ内行きのバスに乗った。家に入るなり母から電報を見て来たのかと問われ、父の臨終に間に合う。脱脂綿で水を含ませると、父は一筋の涙を流して息を引き取った。駆けつけた深川の叔母は、その朝、紬の着物に糸まきの下駄をきちんと履いた兄の姿が家へ入ってくるのをはっきり見たと語った。江戸っ子の父は寝間着では知らせに行かなかったのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・幽霊・怪異体験・昭和)