軒に残された一房の髻と壁の血
どんな伝承か
『雨月物語』の「吉備津の釜」の結末である。物忌みの最後の夜、五更の空がしらじらと明けかけたころ、正太郎は彦六を呼ぶ声に誘われ、まだ明けきらぬうちに斎みの家の戸を開けようとした。戸を開けきらぬそのわずかの間に、命は奪い尽くされてしまう。夜が明けて戸口の脇の壁を見れば、なまなましい血がしたたって地に伝わっていたが、屍も骨も見当たらない。月明かりに軒の端を照らしてみると、そこにあったのは男の髪の髻ばかりで、ほかには何一つ残っていなかった。裏切られた磯良の怨念は、壁の血と一房の髪だけを残して物語を閉じる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路・幽霊・文学史・昭和)