横尾谷岩小屋の完全装備の幽霊
どんな伝承か
昭和二十三年、著者は山に入るたびに遭難者に出会い、奥又白谷で遺体の始末に何日もつき合わされた。その直後、上高地の奥の横尾谷の岩小屋に一人で泊まり、小さなたき火を見つめていた夜、完全装備の山男が足音高く小屋の前の道を右から左へ通り抜けた。挨拶もせず、こちらを一度も見ないその姿の異様さに、著者は山靴をつっかけて追ったが、どこにも姿はなく呼んでも返事はなかった。後年、妻と訪れて横尾谷に入ると、岩小屋の一帯は土石に埋もれていたという。
原典より
完全装備の幽霊が岩小屋の前の道を足音高くぬけていった夜があったっけ。—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。