予が幼少のころに、天狗にさらわれて久しく山中に栖んだ
どんな伝承か
筆者が幼いころ、天狗にさらわれて長く山中に住んでいたと自称する、三十歳ほどの蓬髪垢面で背丈六尺あまりの男が、ぼろぼろの白衣を着てどこからともなく村へ流れ込んできたことがあった。頼まれれば祈祷やまじないをする一方、毎日子供たちに交じって魚を釣り、その腕前は名人級であった。ちょうど村の渡し場の番人がいなくなって困っていたので、その男に番小屋に住んでもらうことにしたが、素性も本名も語らず、ただ山の中で草木の実や魚を食べて暮らしていたとだけ話した。半年ほど渡し番を務めたのち、あるとき忽然と行方知れずになってしまったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考・1970年代)
松谷みよ子『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』を小話単位で全532話収録。河童・天狗・神かくしにまつわる現代の民話・怪異譚を全国から採集し、地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明530話・市区町村判明477話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。