請川野竹の木地引憑依譚
どんな伝承か
「紀伊国続風土記」の東牟婁郡請川村野竹の条には、元文年間のこととして次の話が載る。この村の弥七郎という七十ばかりの親爺が病にかかって突然悶絶したので、家の者が驚いて呼び返すと、正気はついたが言語も態度もまるで変わり、女房子の顔も見分けられず、その言葉は熊野の人のものでなく木地引の言葉になっていた。木地引の者には近江国の詞が多く、誰が聞いてもすぐ分かる。当時、同じ村の山奥に同じく弥七郎という木地屋が住んでいて、近ごろ死んだばかりで魂がまだ消えずにいたのが、我が名を口々に呼ばれるので戻って来て、別の弥七郎の体内に入れ替わったのだろうということであった。そうしてなお十年ばかりも生きていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第4巻』を全822話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。