田原と多羅尾を取り違えた車夫
どんな伝承か
近江の貴生川駅で汽車を降り、犬が綱を曳く人力車を雇った。この車夫は移住者とも見えないのに、少しも田原殿のことを知らない。長野の町を過ぎるまで、わざと話を瀬戸物の火鉢などに低徊させ、徐ろに田原の古今に及ぼうとしたが、どうも話の調子が合わない。タアロならこの道ですぜと左の方を指したりする。そこで五万分の一の地図を車上に広げ、車夫の言と対照してみると、この車夫の脳中には宇治田原という地名が全く無く、自分の田原と彼の多羅尾とが混線していたことが分かった。語勢や訛りの経験もなく地名の比較研究を発表するのは剣呑だと悟った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第2巻』を全331話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。