心斎橋
どんな伝承か
明治八年のある夏の夜、車夫の上村玄六が心斎橋詰めで客待ちをしていた。天神橋までと、恰幅のいい紳士と芸者風の女を乗せて人通りの少ない場所に来ると、座席のほうで妙な揺れ方がする。速度を緩めると、今度は女の押し殺すような荒い息づかいが聞こえた。何げなく車を停めて振り向き、客に目がとまったとたん、握っていたかじ棒から手を滑らせ、客は後頭部から地面に転がり落ちた。無礼者とステッキで打たれ、大立ち回りとなる。紳士の梅木昇は邏卒にも刃向かって連行され、文部省に奉職する身でありながらと即日免職となった。以後、人力車の男女の相乗りは厳しく禁じられた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成)
松谷みよ子『現代民話考 ― 偽汽車』を小話単位で全525話収録。汽車・船・自動車などの乗り物にまつわる現代の民話・怪談を全国から採集。狐狸が汽車に化ける偽汽車、船幽霊、タクシーに乗る幽霊などを地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明359話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。