「ながべえし」の追剝ぎ
どんな伝承か
まだ穴山まで汽車が開通しない頃、ある女が生家の塩崎から嫁ぎ先の穴山村伊藤窪へ道を急いだ。韮崎の宿を過ぎ、青坂を上ると、行く手を狐やむじなが右往左往して心細い。坂井や上野の人家の灯に心なごんだが、やがて評判の悪い「ながべえし」――新府駅のあたりから線路沿いに南北へ長く続く松林――にかかった。林の中ほどで数間先に二つの人影が浮かび、何かささやいている。追剝ぎだと直感した女は下駄を脱ぎ、「こんばん」と虚声をあげて突っ切り、一目散に千メートルほど走って難を逃れた。この林には時折追剝ぎが出没し、女の長男も夕刻ここで顔に墨を塗った追剝ぎに遭ったという。
原典より
まだ穴山まで汽車は開通しなかった時分、かの女は生家の塩崎から、とつぎ先の穴山村伊藤窪へ道を急いだが、韮崎の宿へ来た頃は、家々にはランプのあかりが、ともされていた。—— 韮崎市の民話伝説(昭和四十二年(1967)刊) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
韮崎市の民話伝説(昭和四十二年(1967)刊)
山梨県韮崎市(穴山・穂坂・清哲・神山・大草・藤井・竜岡・中田・円野ほか各町)に伝わる伝説・民話を、木/石/水/塚/坂・峠/山/谷・沢/屋敷跡・城址/祠堂/その他 の各部門に分類して集成する。武田信玄・勝頼ら甲斐武田氏や新府城にまつわる伝承、日本武尊・源為朝・弘法大師の旧跡、御神木や霊石・霊池の怪異、稲荷・地蔵・観音の霊験、狐狸むじな・河童・鬼の昔話など、韮崎の地に根ざした怪異・霊験・由来譚を地区つきで網羅する。