著者が実見した不動明王の掛軸
どんな伝承か
大正十五年三月二十一日、曇って冷え込む朝、浅野和三郎は横森家で問題の不動明王の掛軸を見た。自分は素人だがと断りつつ、並の品でないことは一目でわかり、古いものなのに絵の具の色が目を奪うほど鮮やかなのに驚いたという。家人らの証言からも先祖伝来の宝に違いないと確かめられたが、由来を記した書き置きは二度の火事で焼けていた。午後にはかね代が掛軸の前で神懸りとなり、市兵衛の霊が村人を相手に数十年前のことを語ったという。
原典より
驚かれるのはその繪具で、古いものでありながら、鮮麗眼を奪ふものがある。—— 二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は弘化元年、土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人六十四人が狂乱し、祈禱が効かず藩の役人が空鉄砲と犬で取り押さえた事件を、野島通玄の記録『甲辰奇怪記』の現代語訳で紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に曾祖父横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。