口の裂けた女に遭った下人の死
どんな伝承か
昔、江戸麴町一二丁目の大黒屋長助のもとに、権助という十七、八歳の下人がいた。あるとき大窪百人町まで手紙を届け、返事をもらって帰る途中、日が暮れて雨も強くなった。傘をさして歩いていると、前をずぶ濡れで行く女がある。傘に入るよう声をかけて顔をのぞくと、口は耳のきわまで裂け、髪をふり乱した化け物であった。権助はあっと驚いて倒れ、その場で気を失う。のちに上下の歯がすべて欠け落ち、阿呆のようになって間もなく死んだ。大窪百人町のあたりには狐が棲み、夜になると人をたぶらかすという風聞があったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・昭和(現代民俗学))
民俗学者・岩井宏実による妖怪事典『暮しの中の妖怪たち』。日本各地の妖怪を暮しの空間(山・海・道・家・屋敷)ごとに、約六十項目にわたり具体例とともに解説する。