体温を一時的に上げる秘術や
どんな伝承か
やがて第二回目の滝行が始まった。寒気を避けるため一時的に体温を上げる秘術や、滝への道をつけるために激流を二つに割る九字避水術など、その他の口伝を受け、十八日目にして苦痛も恐怖もなく修行できるようになった。年が明けてから、師とともに十津川の奥へ回峰行に出かける。そこでの修行は主として「飛行の術」であった。飛行といっても空を飛ぶのではなく、谷を渡り高山をよじ登るときのために高跳びや幅跳びの類いを繰り返し訓練するのである。滞在は五十日あまりに及び、入山以来はじめて彼は少年らしい笑顔を取り戻した。満三年があっという間に過ぎ、熊蔵は十七歳の正月を迎えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・現代(著述))
井村宏次『霊術家の饗宴』。明治末から昭和初期にかけて隆盛し、抹消された〈霊術家運動〉の歴史を発掘・復元する。プロローグで霊術家の運命を予告し、第一章では気合術師・浜口熊嶽が帝都に乗り込み九字と気合の嵐で名を上げ、明治の心霊手術を行い、実川上人のもと那智滝で仙人修行・三密の極意を得て、大阪の『真言秘密』裁判で判官臨席の気合術実験により勝利するまでを描く。