仙人修行
どんな伝承か
那智に着いた熊蔵を待っていたのは、想像していた御堂ではなかった。那智本滝の上一町ばかりのところに岩窟があり、その一坪ばかりの横穴が老僧実川上人の住処であった。山から山へ谷から谷へ飛ぶように渡り、無言の行と数息観に明け暮れる日々が始まる。冬のある日、師は小僧を那智六の滝へ連れて行った。水との格闘に破れて幾度も水中に溺れ、気合と九字の嵐に打たれても覚醒せず失神した滝行の第一日目、熊蔵は悔しさとみじめさに泣きあかした。二十一日を一期とする滝行を終えて滝の真下へ一文字に進めるようになり、翌年からは寒気を避けて体温をあげる秘術や、激流を二つに割る九字避水術などの口伝を受けた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・現代(著述))
井村宏次『霊術家の饗宴』。明治末から昭和初期にかけて隆盛し、抹消された〈霊術家運動〉の歴史を発掘・復元する。プロローグで霊術家の運命を予告し、第一章では気合術師・浜口熊嶽が帝都に乗り込み九字と気合の嵐で名を上げ、明治の心霊手術を行い、実川上人のもと那智滝で仙人修行・三密の極意を得て、大阪の『真言秘密』裁判で判官臨席の気合術実験により勝利するまでを描く。