睡魔術から霊術へ
どんな伝承か
明治三二年七月初めのことである。静岡師範学校教諭の桑原俊郎は公休日であったので、自宅を出て静岡市の中心部にある清水山公園へぶらりと散歩に出かけた。途中で目にとまった本屋に入り、近藤嘉三の『魔術と催眠術』と題された奇妙な内容の本に手がいった。公園で日ざしをさけて坐り、ばらばらと拾い読みしたが、いまの自分には必要ないと思い、家に戻ると本箱の隅にねじこんでそれっきり忘れてしまった。同年九月一二日、原因のわからぬ熱で病床についていた彼はその本を思い出す。念を入れて読むとぞくぞくするほど面白い。夕方、知識だけではもったいないと女中を呼んで半信半疑のまま術を施すと、難なく三十分ばかりで眠った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・現代(著述))
井村宏次『霊術家の饗宴』。明治末から昭和初期にかけて隆盛し、抹消された〈霊術家運動〉の歴史を発掘・復元する。プロローグで霊術家の運命を予告し、第一章では気合術師・浜口熊嶽が帝都に乗り込み九字と気合の嵐で名を上げ、明治の心霊手術を行い、実川上人のもと那智滝で仙人修行・三密の極意を得て、大阪の『真言秘密』裁判で判官臨席の気合術実験により勝利するまでを描く。