背後の釜石の女の霊を説き伏せた老婆
どんな伝承か
銀座の料理屋で西丸震哉の前世を語っていた老婆は、まだ怪訝な顔で彼の頭上を見つめ、あなたの後ろに立っている女の人はどういう関係かと尋ねた。二十七、八くらい、色白で細面、大きな紺の牡丹模様の浴衣を着た女だという。西丸には、それが釜石の水産試験場に勤めていた頃に毎夜つきまとった幽霊だと即座に分かった。土地付きの霊だと思って安心していたと言うと、老婆は、この種の霊はきっかけさえあればどこへでも出てくると答えた。解放を頼むと、老婆は西丸の背後に向かって小声で何か話しかけ、やがて納得してくれた、もう関わることはないと告げたという。
原典より
もしやそのまた前の前世でも出ましたか、と聞くと、いやそうじゃない、あなたの後ろに立っている女の人はいったいどういうご関係の人ですか、と聞かれた。—— 続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年))
『続 山だ原始人だ幽霊だ』は、西丸震哉の随筆集で、あとがきの日付は昭和四十七年三月十日である。出版の都合で前後編に分けたうちの後編にあたり、ニューギニアやニューブリテン島、トロブリアンド島の部族を訪ねた探訪記と原始社会の食生活論に続いて、幽霊についての自説と、自身や身内が出会った怪談を収める。終わりには手相、テレパシー、呪い殺し、雨やみの術、インドから自宅へ魂を飛ばす実験の話が並び、カバーと挿絵も著者が描いたとあとがきにある。