大津の家の仏間
どんな伝承か
著者が小学一年生のとき、祖母が中気で危なくなり、一家そろって大津港にある父の実家の大きな古い家へ行った。ある晩、祖父は退屈しのぎにいい見せ物があると言って、孫たちを祖母の寝ている十五畳の仏間に集めた。夜十二時を過ぎると、仏壇の裏の便所の方からトントンという足音とサラサラという衣ずれの音が起こり、壁の中や襖、障子の向こうを通って部屋をひと回りし、五分ほどで仏壇の中に消えた。家が建って以来、毎晩一度出るのだという。翌晩、祖父は明かりをつけて待ち、近づいた音に日本刀で居合いをかけたが、音は刀の上を悠々と通り過ぎていった。
原典より
けれどもトンサラの音は何事もなく刀の上をゆうゆうと、そしてわれわれの眼前を通りすぎて行った。—— 続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年))
『続 山だ原始人だ幽霊だ』は、西丸震哉の随筆集で、あとがきの日付は昭和四十七年三月十日である。出版の都合で前後編に分けたうちの後編にあたり、ニューギニアやニューブリテン島、トロブリアンド島の部族を訪ねた探訪記と原始社会の食生活論に続いて、幽霊についての自説と、自身や身内が出会った怪談を収める。終わりには手相、テレパシー、呪い殺し、雨やみの術、インドから自宅へ魂を飛ばす実験の話が並び、カバーと挿絵も著者が描いたとあとがきにある。