蠅供養
どんな伝承か
元禄十五年二月、まだ寒さの厳しい頃、京の寺町通松原下町の飾屋九兵衛の家に、季節外れの蠅が一匹現れた。主人の手に、女房の手に、膳の間にと何度も姿を見せるので、夫婦はつまんで外へ捨て、紙袋に入れて堀川の方へ捨てさせたが、蠅はまた戻ってきた。九兵衛は臙脂を塗り、弟の勘右衛門に伏見へ捨ててもらったが、夜には臙脂のついた蠅が行灯にとまっていた。九兵衛は、先月亡くなった婢お玉から預かったままの銀を思い出し、その銀で供養を受けたいのだろうと考えた。
原典より
羽にも腹の下にも塗ったままの臙脂が点いていた。—— 日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が書いた怪談・奇談の短編集である。著者が「私の村」と呼ぶ土佐の海村の迷信を語る「鷲」のほか、高岡郡や長岡郡、野根山など土佐の話を多く含み、越中の放生津や立山、銚子の利根川口、京の寺町、摂津の味泥、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の妖術を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人や土地の人から聞いた話として語る篇もある。