蠅供養
どんな伝承か
まだ二月の余寒の強い頃、京の寺町通り松原下町にある飾屋で、主の九兵衛が火鉢にかざした右手の甲に一匹の蠅がとまった。時季外れの蠅を不審に思って追うと、蠅は帳場格子の上へ移った。奥の部屋では女房と娘が向き合って針仕事をしており、そこへも蠅が飛んで来て女房の手にとまり、女房は「時知らずの蠅じゃよ」と言った。昼食の折には九兵衛の手首に、午後には帳場と表座敷に、夜には行灯の障子にと、同じ一匹らしい蠅が家じゅうに現れ続けた。九兵衛は潰さずに掌ですくい、雨戸を細く開けて外へ捨てた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ・明治末~大正期(推定))