死んだ姉が知らせた住所
どんな伝承か
差出人の名もない葉書が届いた。墨ともインクともつかぬ薄い字で、筆の先ではないもので書いたように、一字ずつ飛び飛びに、前原の住所が芝区の某町某番地とだけ記されていた。前原は父の店で支配人格を務めた人で、姉を望みながら父に断られ、遠方へ去っていた。姉は入院中も行方を尋ね続け、ついに知らぬまま死んでいる。母が葉書を頼りに芝へ出て交番で聞くと、確かに一月ほど前に越してきたという。訪ねると前原は驚き、誰にも知らせていないのにと言い、二晩前に姉が夢に立ったと青ざめた。
原典より
* 乃木大将と深山の美人* 客に縋る娼妓の幽靈* 火を起し湯を沸す幽靈* 行司の見た幽靈* 新俳優の見た幽靈* 貞女の幽霊と勝四郎* 三人見た白い手の幽靈* 他女の體に宿る幽靈* 伯母…—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。