昭和初めの頃の話
どんな伝承か
高知県室戸市佐喜浜町の話。昭和初めの頃、尾崎村の長さんは四十一歳の厄負けの病気で寝込んだが、三日目に息を引き取った。その夜のトギの時、用事で外郷へ行っていた義兄が知らせを聞いて駆け込み、死顔を眺めて『お前に行かれたら家も親戚の者も困るきに、戻って来てくれんか』と男泣きに涙を流した。その涙が二、三滴長さんの顔に落ちると、事切れて久しい長さんの眼がぱっちりと開いた。長さんは、花が咲き乱れる野原の一本道を歩き、花野の果てには川が流れて渡舟が浮かんでいた、遥か後ろから戻れと呼ぶ義兄の声に振り向いて駆け寄り、手を取り合ったところで気がついたと語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。