一度録れて消えていった鉦の録音
どんな伝承か
鉦の音を確かめようと、長田幹彦は感度のよいテープレコーダーを買い入れ、仏壇の前に据えて毎晩午前三時過ぎに起き、香をたいて録音を試みた。耳にははっきり聞こえるのに、何か月たってもテープには入らなかった。六月のある日、精神統一をしてからマイクを向けると、四つずつ続く鉦の音と経のような声がかすかに録れた。ところが六日ほどすると録音は薄れ始め、やがて全く聞こえなくなった。録音は消さない限り残るはずだと製造元は言うが、長田は霊には時間や空間の約束があるのではないかと考えたという。
原典より
六月の或る日、精神統一をやったあとでマイクを向けると嬉れしいことに鉦の音らしいものがかすかながらたしかに入った。—— 私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。