例九=岩松探り脅かさる
どんな伝承か
出雲第一の景勝地として知られる立久恵は神亀峡とも呼ばれ、切り立つ奇岩が渓流沿いにそびえる。その岩山の間には一宇の薬師堂があり、古くから天狗の棲み処と恐れられていた。明治の初め頃、著者宅の下僕・瀧蔵がひとりで参詣し下山する途中、数人の参詣者に出会うと、皆恐れをなして道を譲り、じろじろと振り返りながら去っていった。当時、立久恵に天狗が現れるという噂が広まっており、背が高く逞しい体つきの瀧蔵が単身で岩山から現れたため、人々は彼を天狗ではないかと疑ったのだった。
原典より
出雲國第一の奇勝地たる立久恵は、神龜峡の雅名を以て文人輩に激賞せられ、数十丈の奇巖が怪松を戴いて約七八町ばかりも渓流の一方に立刻らんで居り、其巖山の間に一宇の薬師堂があつて、昔しから天狗どころとせられてゐた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談・大正〜昭和(戦前)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談・大正〜昭和(戦前))