嫁の身投げのあと子を背負った野菜
どんな伝承か
明治の末、安房の館山町の船主北尾与太郎の母お敬は、嫁のお時をひどく憎み、孫が生まれてからはその尻をつねって泣かせるほどいじめた。ある日ののしられたお時は、赤子を背負ったまま裏の井戸に身を投げて死んだ。それからお敬の作る畑物に異変が起こり、胡瓜も茄子も瓜も子を背負ったような形になって育たず、自慢のとうもろこしは穂毛が人の髪のように黒く縮れ、皮に顔のような斑点が出て、茎には小さな穂を背負っていた。騒ぎは警察や役場が検分に来るほどになり、怪異は三年も続いたという。
原典より
胡瓜を作れば、生る胡瓜が悉く、小兒を背負つたやうな形になり、中途で腐つて了ひ、偶ま大きく育つても、ブクで食用になるのは一個もない。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。