花嫁が天狗に挨拶をする話
どんな伝承か
身も魂もあらたまった翌る朝、花嫁が縁側からふと向こうを見ると、植込の木々の葉隠れに白衣の人が半身を現し、取り乱しがちな花嫁の姿を射るような目で見ていた。どこかの客であろうと思い、丁寧に辞儀をして名を尋ねると、白衣の人は横柄に二三度うなずいて「われは猿田彦の神ちや」と答えた。よく目を定めて見れば緋面隆鼻の姿であったので、花嫁は縁側に崩れ坐って拝み伏した。その隙に白衣の人は天狗の面をかなぐり取り、赤い舌をぺろりと出して、どこへともなくこそこそと逃げて行ったという。
原典より
身も魂もあらたまつた翌る朝、さしのぼる日も眩ゆいやうなうら恥かしさで、縁側からふと向うを見た花嫁は、思はずはつとしたのだつた。—— 阿波えゝぢやないか(山口吉一・民俗・幕末世相史・昭和(対象は幕末)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波えゝぢやないか(山口吉一・民俗・幕末世相史・昭和(対象は幕末))
概観篇では御降り(御札降り)に関する騒擾、伊勢神宮への御蔭参り・抜参りを慶安・宝永・明和・文政・慶應と時代別にたどり、慶應のええじゃないか、阿波のええじゃないかへと展開。幕末阿波(徳島)の御札降り・群集乱舞・世直し的民衆運動を、各事例の冒頭に【日付】【場所】【人物】【状況】マーカー付きで網羅した民俗・世相史。