濃霧の三面川に流れてきた主のない目印
どんな伝承か
二〇〇〇年、台風の影響で群馬の渓のヤマメが激減したため、井上聡はゴールデンウイークに新潟県の三面川へ出かけ、小学五年の娘が同行した。夜明けを待って釣り始めると、六時ごろ辺りが真っ白な濃霧に包まれた。すると上流から、自分のものではない赤と黄色のセルロイドの目印が、水面から二十センチほど浮いて舞うように流れてきた。二メートルほどこちらへ近づくとすっと引き上げられて霧に消え、仕掛けを入れるたびに同じことが繰り返された。石を踏む音もサオを振る音も聞こえず、呼びかけても返事がない。近づこうとした瞬間に霧が晴れると、川には誰もいなかった。車にいた娘も誰も見ていないと言い、その時に撮った写真には老人のようにも見える赤い帯が写っていた。
原典より
ところが、なんと、いるべきはずの釣り人がどこにもいない。—— 水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ)
『水辺の怪談2』は、釣り人たちが釣り場や釣り宿で出会った怪異を、本人の筆で綴った体験記を集めた本である。伊豆半島や南紀の磯、黒部峡谷、芦ノ湖、中禅寺湖、北海道の渓流などを舞台に、金縛り、女の霊、謎の足音、自殺のあった場所の怪などを、釣りの様子とともに語る。「海の章」と「川・湖の章」に分かれ、各編の冒頭に筆者の住まいや職業、得意な釣りを記した紹介を置く。