黒薙温泉への隧道で追ってきた呻きと足音
どんな伝承か
古杉隆一郎は、後山谷の体験から二十年後、仲間二人と黒部の黒薙川支流柳又谷へイワナ釣りに入った。帰りは一人で山を越えて電源開発の道へ下り、黒薙温泉へ向かう長い隧道に入ろうとすると、入口に脚絆姿でキセルを吸う老人が座り、トンネルに入らず山道を行けと繰り返した。顔がよく見えず気味悪く思いながら忠告を聞かずに隧道へ入ると、谷側へ開いた窓の外の、行きに足を置いた場所に小さな地蔵が二体据えてあった。そこで苦しげな呻き声が響き、追ってきた複数の足音に囲まれてザックを押し引きされた。電源開発では日本人でない人を中心に多くの犠牲者が出たという。
原典より
「オー・・・・・・」とも「ウー・・・・・・」とも聞こえるその声は苦渋に満ちていた。—— 水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ)
『水辺の怪談2』は、釣り人たちが釣り場や釣り宿で出会った怪異を、本人の筆で綴った体験記を集めた本である。伊豆半島や南紀の磯、黒部峡谷、芦ノ湖、中禅寺湖、北海道の渓流などを舞台に、金縛り、女の霊、謎の足音、自殺のあった場所の怪などを、釣りの様子とともに語る。「海の章」と「川・湖の章」に分かれ、各編の冒頭に筆者の住まいや職業、得意な釣りを記した紹介を置く。