紅筆に仕込まれた毒
どんな伝承か
享保のころ、下谷北稲荷町にあった広徳寺の門前で、母と娘が筆屋を営んでいた。娘の名はお蔦、下谷小町と呼ばれるほどの美貌で、筆の穂先を口に含んで整えては客に差し出す。その紅の跡を有難がる男たちが押し寄せ、店は繁盛した。ところが情人だった尾張町の薬問屋の番頭が、他にも男がいると知って逆上し、何本かの筆に舶来の猛毒を塗る。事情を知らぬお蔦は、塔婆用の筆を求めに来た広徳寺の納所坊主のためにいつものように穂を嘗め、悶え苦しんで息絶えた。持ち帰った筆を嘗めた坊主も後を追い、二人は毒薬心中と噂されたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
佐藤隆三編『江戸傳説』を全42話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。